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武本拓也

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上演を通して、日常と遠くを見る

 

毎日の上演は、日常の延長線上にある

ー 毎日必ず上演することを日課としている武本拓也。上演は、日々行うことの延長線上にあり、日常の一部である。
現在は、日中は企業に勤め、主に夜、必ず「本番」をする。誰も見ていない公民館の一室で、それが叶わなければ自宅や公園で。気づくことがあればメモに残し、深め、進む。例えば「指先の脱力を全身でもやる」「身体の前面を使う」といった言葉がノートに並ぶ。

「毎日やる意味は、上演を、特別な存在ではなく、手元の日常に引き寄せるためです」

ー 武本の上演は、舞台上にただ一人、立つ、歩く、など連続するわずかな動きの積み重ねで成り立つ。一見すると静寂、無、孤独のように見えながら、「まずはその場にある音に、できるだけ細かく耳を澄ましていきたい」と武本は言う。決まった振付や動作を見せるのではなく、その場とつながり、関係していく。

「お客さん、照明や音響、美術、全ての参加者が上演を構成する。僕は上演に参加している、という意識でいます」

 

相反する色々な感情を、一度に扱いたい

ー 武本には「相反する感情を扱いたい」という思いもある。

「泣きながら笑う、とか、惨めだけどエレガント、とか。そもそも、舞台で一人立っている姿は、馬鹿みたいでもあるし、切実なようでもある。かっこ悪いし笑っちゃう。一人を大勢で見つめる構図が暴力的でもあるし、楽しくもある。色々な感情を、一度に扱いたいと思う」

 

『山を見にきた』を通して見たいもの

ー 今回の会場となるゲーテ・インスティテュート東京は、武本にとって今までで一番広い。その広さを思った時、武本の中に、上演芸術への動機とも近い原風景があった。

「生まれ故郷の群馬は山に囲まれた盆地です。家が榛名山の麓にあって、屋上からは赤城山を一望できるロケーション。何十キロと離れた間には障害物がなく、遠く麓の街に人や車が点々と動いているのが見える。自分は山を見ているけど、(目に映る)一つひとつの中には生き物も汚いものもあって、それぞれは同じ空気でつながっているけど、別に関係していない。その体感が、昔から心に残っています」

ー 上京して舞台を見るようになって、同じことが言えると思った、と武本は言う。

「客席と舞台は、別の世界なのに、同じ場所、同じ空気の中に自分もいる。いい舞台だと、そこで終わらず、外までも想像させる広がりがある。それは昔、自分が見ていた風景とすごく同じことだ。そこに感動して、僕は舞台をやっています」

ー 舞台に立つ動機としての原風景を題材にすることは、これまで体感の内側を表現してきた武本にとっては新しいこと。

「今回初めて、体感する外側の何かを見に行こうとしている。僕自身が何かをするより、僕とお客さんとで共有できる何かを見たい、という気持ちがあります」

 

2021年8月4日 取材
写真:室岡小百合
インタビュー・文:森 祐子
場所:nadoya yoyogiuehara

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