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ハラサオリ

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過去をどう参照して未来に繋げるか。ダンスはその方法の一つ

 

ー 実の父の人生と、私の人生。アーティスト、ハラサオリの個人的な事象が、東京オリンピックという社会的な事象と重なる。

「今回の再演は、奇遇にも私と父の年齢の差である『57年』ぶりの東京オリンピック開催の年と重なりました。父は前回の1964年東京オリンピック当時33歳。私も今年33歳になります。その事実だけを並べれば、私的な偶然に過ぎないのですが、この『Da Dad Dada』(ダダッドダダ)という作品は、ある個人の人生を糸口として社会の歴史へアクセスするような構造を意識して制作しました。私にとっての表現とは、私的な記憶や事象を通して世界を批評的に見つめる、その体験を共有するための作業です。いつもそういう未来を目指して踊っています」

 

役に立たないものを排除しない社会を

ー 再演を前にパンデミックが顕在化し、アーティストとして、ダンスは役に立つのかという問いに改めて直面した。

「生死には関われない=役に立たない。それでもやりたいと思ってしまう、エゴとの向き合い方。ダンスは、役に立たない。けれど改めて、役に立たないものを排除しない社会というのを実現しなければいけないと強く感じました。”役に立たないもの”を包括する豊かさ、それを体現していくことがアーティストの使命のひとつだと思っています」

 

多層的な批評性と創造性に衝撃を受けて

ー 拠点にしているドイツのベルリンでは、行政が「文化は必要不可欠である」と明言をした。「社会の無駄」を認める体力がある国。

「私は、ダンスへの興味を失い、何年も踊っていない時期がありました。その頃留学した先のドイツでは、毎晩のように舞台が上演されていて、その世界に圧倒されました。そこには、ダンスはもちろん、美術、音楽、ファッション、建築、思想哲学、医学、テクノロジーなど、様々なバックグラウンドと共に身体表現を追求しているアーティストがいました。ダンスである、演劇であるといった単純なジャンルの線引きを超えた、多層的な批評性と創造性に衝撃を受けて、私は再び自らの踊りと向き合う希望を持てました。裏道を歩いた私だから、20歳の頃の自分のような、これからの人たちのために、少しでも還元したいと思います。自分にとってのローカルである東京で」

 

踊っているこの瞬間の感動だけを求めない

ー ハラにとって踊ることは、社会にコミットする唯一の方法。

「どこかで、人の人生に関われたら、といつも思っている気がします。私の作品を観て何かがすぐ変わる、とかでなくても、その体験を通して一度過去に飛んで、また戻って、さあ明日からどう生きようかと思いを馳せる、とか」

ー 今、この瞬間の感動だけを求めない。それはダンサーとしてはそう多くない思想かもしれませんね、と微笑む。

「もっと長期的なことをしたい。時代が自分を通過していく。私は長い時の中のOne of Them。自分を、自分の人生を、本当に小さな存在としか思っていないのです。過去をどう参照して未来に繋げるか。ダンスはその方法の一つです」

 

2021年8月11日取材
写真:室岡小百合
インタビュー・文:森 祐子
場所:スパイラルホール

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