Artist Interview→
ー 新型コロナウイルスの影響で、来日せず、短編映像『Landing on Feathers』の配信という形での参加となったチジャ・ソン。「ケアワーク」をテーマに制作した短編だ。Landing on Feath-ers――羽に着地する、という、やわらかな、そっとした動きを想像させる響きをタイトルにしたチジャ。
「ケア」を媒介に、タッチする、感じ合う、つながる、異なる存在同士の境を超えて溶け合う、パフォーマンスであり共有の場でもあった『Landing of Concerts』のライブ公演から映像配信に切り替えたチジャに、今の思いを聞いた。
映像配信となる『Landing on Feathers』は、改めてTogetherness―一緒にいることについて、投げかけたいと言う。
「Togetherness――一緒にいるって、どういうことか。この作品は、ダンスのセッションを通して、“一緒にいる”。それと同時に、“踊るってどういうこと”という問いも投げかけています。踊ることは、優れた技術を持つ、身体の柔軟な人達だけに与えられるものではなくて、身体に障害がある人にも、その人にしかできない踊りがある、ということ。この作品づくりを通しても、私自身が、ダンスの定義を覆される経験をしました」
ー 作品は、「ケアワーク」を題材とし、生活の中での会話とダンスシーンが交錯していく。
「ケアワークという文脈でセッションする中で、ダンスと、自分の普段の生活が絡み合い、交錯しています。踊るということは、動きを通してコミュニケーションするということでもある。踊りを”舞台化”しない。ダンスを、素朴に、日々の生活に見つけることの意義が、伝わったらいいなと思います。それはつまり、一緒にいること。ダンスだからできる、踊るからできる、一緒にいること。ダンスは、一緒にいるためのコミュニケーションの一つとして、そこにあります。
作品を通して、一般的にケアワークという言葉のイメージや映し出すもの、例えばハードワークだとか、暗い、悲観的なケア側の重たさといった先入観とは違った切り口を紹介できたらと思います」
ー コロナ禍で、チジャの作品づくりも少なからず影響を受けた。
「もちろん、たくさんの変化がありましたが、一番は、時間の感覚でしょうか。どれだけ時間をかけるかということは、『Lands of Concerts』の時から試みていたことですが、時間をかけることの大切さを改めて見つめています。ファストフードのような感覚で、2か月で作ってハイ公演!ではなくて、スープを作るような気持ちで。みんなでスープを作る。どういう具材にしようか、具材と具材の相性はどうか。丁寧に考えながらアプローチするようになりました。アプローチが変われば、作品の表現も変わるし、伝えたいことも変わる。パンデミックは大きな変化のきっかけになりました。
だからと言って、パンデミックについて、ケアについて、と直接的に作品をつくるのではなくて、ケアを実践する中で作品を作る、ということは変わらずに芯としています」
ー 普段ダンスを見ない人にも、ダンスへの先入観を捨てて見てほしいと言う。
「ダンス、と思わないで見てみていただけたら。ダンスに対する先入観はいったん横に置いて。作品を見ていただけたら、動きを通して一緒にいる意味は何か、ということに、少し触れていただけるのではないかと思います」
ー あなたはなぜ踊るのですか。
「そうですね……踊ることを舞台化する、ということと、純粋に自分のために踊るということは、私には結構距離があります。本質的に、自分のために踊ること、周りの人が見ていることなしに踊るのがなぜかと問われたら……。身体が教えてくれることが、たくさんあるから。身体でわかることを、頭に教えてあげることがたくさんある。ダンスは、人と人が、そして自分が自分の内側と触れ合うためのツール。自分の自由を、感覚的に語ってくれる体験です。“ツール”というとドライですけど、人間の基本みたいなことが感じられるから、私は踊ります」
ー 舞台化する作品で、人々の中に起こしたい変化とは。
「一方で、踊ることを舞台化するというのは、踊る枠を超えた空間全体の動きとして捉えています。身体もそのスペースの中のいち要素。物も音楽も服も、全ての動きを考えて空間を作ることが、私は面白い。全体の中に現れた動きやひとつの表現を通して、人が疑問を浮かべたり、日々、それぞれが直面していることやそれぞれの立ち位置から、ふと立ち止まって考えられる瞬間があればいいと思いますし、単純に、心がふわっと躍ったり震えたり、そのミクスチャーが作れたら、成功!という感じです」
ー 来日できなかったことは残念で、ぜひまたライブで見ていただきたいとは言いながらも、パンデミックだからこそわかること、ストレスの多い日常ではあっても、日々学べることを試みて、また交流できる場が作れたらとも思う、と語ってくれた。
2021年10月取材
写真:『Landing on Feathers』より
編集:森 祐子