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ヤスミン・ゴデール

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私たちは共感をどう持てるのか
ダンスを媒介に世に問い続ける

 

ー Practicing Empathyは、ヤスミン・ゴデール・カンパニーが2019年から発表してきた作品シリーズ。今回、新型コロナウイルスの影響で来日が叶わなかったため、#1と#2by2、そして新作のソロ#3の映像を、一挙に上映することとなった。#1は複数のパフォーマーが、#2by2ではパフォーマーが観客を巻き込み、そして#3はヤスミン自身が一人でパフォーマンスをする、というように、スタイルを変化させてきた。
今、ヤスミンが上演する意味とは。Practicing Empathyで伝えたいこととは。

「この2、3年、私は作品をつくるにあたり、振付家として、上演における観客との関係性を捉え直すようになりました。“人と人が会う”と言う意味で、劇場に人が集うこのひとときに潜む可能性を見つめています。その視点から、ダンスをツールや媒介として、人々が互いに関わり合う特別な機会と捉え、またそこに反応していく作品づくりを始めました。ただの鑑賞する対象としてではない、より観客の参加意識を誘い出すような作品をつくることにシフトしたのです」

 

ー Practicing Empathy―「共感の実践」。Empathy(エンパシー)は、同情や思いやりを示すSympathy(シンパシー)とは違い、他者の立場に立って物事を考える「共感」を表す言葉。まさに他者との関わりがテーマだ。

「Empathy(共感)は、様々な視点から見ることのできる言葉です。Practicing Empathyの3つの作品を今回同時に見ていただくことで、視点が移り変わり、理解を深められるという良さがあります。
Empathyは、とても柔らかで心地よい温かなシェアの精神だと捉えられがちですが、実際にはそうとも言えません。時には苦痛を伴う、理解するのが辛いものごとに対峙することであり、ある意味では困難なこととも言えるのです」

 

ー 人は果たして、本当の意味でEmpathy(共感)を実践できるのか。そこでヤスミンが投げかけるのは、まずは自分の反応を通して、感情の動きに気づくことの意味。

「パフォーマンスを体験して、そのどこが自分の感情に作用したかを感じ、気づくこと。私たちを閉ざすもの、あるいは開くもの。何かの光を描き、意識のスペースを開いたか。そこに生まれた変化、私たちの内側に生じる感情の動きこそが、Empathyにつながっているのではないか。自分は何に惹きつけられるのか、あるいは拒絶するのか。何を不快に感じたり遠ざけたりし、あるいは近づくのか。そうした感覚の変化に気づくことは、何かと関わる力につながる。それを伝えたい、というより、このような問いを投げかけたいと思っています」

 

ー 作品が、他者と関わる力、ひいては他者の立場で共感する力につながる気づきをもたらすものであれたら、というのがヤスミンの思いだ。
ヤスミンは、観る人に、それぞれが体験したいように体験してほしいと言う。

「ビジュアルで視覚を通じて感じるだけでなく、目を閉じてもいい。例えば、Practicing Empathy #1は、声を多用しています。声を通じて互いの感情をつなぐ試みです。この作品を通じて、観客が、その体験を好きなように受け取れて、作品を見る間、身体に起こる変化に気づけるものであるといいと思います。観客が作品の中に入り込めるようにしたい、というのは、そういう意味です」

 

ー #2by2は、パフォーマーが観客を巻き込むインタラクティブな作品。2m×2mのスペースで対峙する人。

「このインタラクティブな作品は、一種のミラーリング(鏡写し)の実践です。新しい身体に出会い、同じ時間を過ごし、なじみのない身体的な体験をする。もう一つの身体から受ける提案に対して、35分間、何であれオープンで居続けること。ともに旅をするような感覚です」

 

ー 最新作は、ヤスミン・ゴデール25年ぶりのソロ。「自分」への「共感の実践」をテーマにする。

「Practicing Empathy#3は、自分自身と共にあることの“自己共感”の考えによりフォーカスしています。果たして私は、自分に対して共感的であれるのか。自分に、自分の身体に、私自身の体験に、共感的であれるか。そして、見る人はそこにどう位置付けられるのか。私が自分自身にこれらのことを投げかけている間、観客はどう入り込めるのか」

 

ー #1でパフォーマー同士の関係性を見て、#2のパフォーマーと観客のインタラクティブな関係を問われ、そして#3で自己と対話するヤスミンを見て、また観客自身への問いかけを体験する。
様々な立場でEmpathyの実践を見つめる数時間。

「Empathyへの答えは一つではありません。知的に解き明かしたり、どういうことか述べたりしたいのではないのです。ダンスや公演を媒介に、この社会的にも政治的にも緊急性の高いテーマを、学び続けるべき深い知識体系とリサーチとして役立てていくようなものです。Practicing Empathyのプロセスにおいて重要なのは、ワークショップを通じてであれ、実際の作品の枠組みの中であれ、Empathyが意味するところや自身の人生の中でどう作用するものかについて学ぶきっなるきっかけになればと思います。

加えて、過去の私の作品とは違い、このリサーチプロジェクトを、終わりを明確にしない進行中プロジェクトと位置付けています。今のパンデミックにより、Empathyはより身近な課題となりました。世界中の様々な場所がこの共通の難題によってつながり、同時に他者とはより断絶し、孤立しています。私の望みは、ある意味では、empathyがどう共鳴し、この様々に異なる現実や文化を読み取るのか、世に問い続けること。そして、継続的に興味を持ち続けることです」

 

ー 分断やつながり、排除や理解の両極が度々話題となる現代社会。世界中で重要なキーワードとなっているEmpathyをテーマに、ヤスミンは今後も、さらに「Practicing Empathy」のプロジェクトを展開し、多くの人々と関わる方法を模索していく。今回の日本公演で、3作品を同時上映すること、それがデジタル配信であることは、手法としては一つのチャレンジであると同時に、どう伝わるのかを示す実験ともなる。ヤスミンは、観客からの反応をとても楽しみにしている。

 

2021年10月取材
写真:Tamar Lamm
インタビュー・文:森 祐子

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